時間単位年休とは?メリット・デメリットと導入の方法
人材の確保と定着を強化したい企業では、積極的に様々な工夫、制度の導入に取り組んでいることと思います。そこで今回は、少ないコストで大きな効果が期待できると導入する企業が増えてきている「時間単位年休」についてご紹介いたします。
時間単位年休にはどのようなメリットがあるのか、導入に必要なことは何かを解説していきます。
時間単位年休とは
「年次有給休暇」とは、一定期間勤続した労働者に対して、心身の疲労を回復しゆとりある生活を保障するために付与される休暇のことで、労働基準法第39条に定められています。
しかし、日本の有休取得率はとても低いのが現状です。欧米諸国の取得率が70%台~100%で推移する中、日本はここ数年でやっと50%台に到達しました。2020年の取得率が56.3%ですから、付与された有休は半分ほどしか使われていないことがわかります。このような背景もあり、2010年4月の法改正によって、有休は時間単位でも取得できるようになりました。時間単位年休の概要は次のとおりです。
・年5日を限度に、時間単位で取得できる
・賃金は、有休1日分の金額をその日の所定労働時間数で割った額とする
・時間単位での計画的付与はできない
・「年5日の有休取得義務(※1)」から差し引くことはできない
(※1)2019年4月の法改正により、年10日以上の有休が付与される労働者には、年5日の有休を取得させることが使用者の義務となりました。今回解説する「時間単位年休」は、この5日にはカウントできません。例えば、時間単位年休を2時間×20回=40時間(5日分)取得したとしても、これとは別に日単位の有休を5日取得しなければなりません。
時間単位年休を導入するメリット
時間単位年休を導入すると、企業側・労働者側ともに様々なメリットがあります。
まず企業側は、働きやすい就業環境作りに積極的であるイメージが高まります。求人募集を出す際に「時間単位年休制度あり」と書くことで、働き方改革が進んだ企業を印象づけられ、フレキシブルな就業が可能な点は求職者が応募に繋がる魅力のひとつになります。
また、就業環境を整えることは従業員にとってもプラスになるので、人員確保の面でも定着率の面でもメリットとなる要素があります。
他には人件費の面でもメリットがあります。社員が退職する際には、有休消化や有休買取をすることがあります。時間単位年休で、普段か有休取得を推奨すことで、退職時にかかるコストの分散が期待できます。
労働者側のメリットは何と言っても有休が取りやすくなることです。例えば、通院や役所の手続き、家庭の用事など、丸1日休む必要はない私用は数多くあります。これらの場面で時間単位の有休を使えば、中抜けという選択肢も増え、時間を有効に活用できます。また、有休を取るときには仕事の遅れや同僚への負担が気になるものですが、時間単位であればこれらも最小限に抑えられます。
時間単位年休を導入するデメリット
時間単位年休のデメリットは、有休の管理が煩雑になることです。時間単位年休とは別で、年5日の取得義務についても管理しなければならないため、ある程度の人数になるとエクセルなどでの集計は難しいかもしれません。
ただ、最近は多くの勤怠管理システムに有休管理の機能が備わっています。時間単位年休にも対応したシステムを活用することで、この点は解決できるので、制度の導入を検討する際には今の勤怠管理システムのままで問題ないのかも一緒に確認しておきましょう。
もう1つのデメリットとして、まとまった有休取得がしにくくなる可能性が挙げられます。時間単位年休の取得を推奨するあまり、丸1日単位の休みは申請しづらくなった、となれば本末転倒です。有休の本来の目的は心身の疲労を回復することですから、1日単位でも問題なく取得しやすい環境づくりは、引き続き必要です。
時間単位年休の導入に必要な手続き
ここまでメリットとデメリットを見てきましたが、実際に制度を導入する際にはどのような手続きが必要なのでしょうか。大きく2つに分けて解説します。
1.就業規則による規定
常時10名以上の労働者を使用する事業場では、就業規則の作成・届出の義務があります。時間単位年休の導入には就業規則による規定が必要なため、次の4つのステップで就業規則の変更手続きを行います。
①就業規則に時間単位年休の条文を追加
②労働者に周知と意見聴取(意見書の作成)
③労働基準監督署へ届出(変更届と意見書を添付)
④変更後の就業規則を周知
2.労使協定の締結
時間単位年休の制度を実際に運用するためには、次の項目について労使協定を結ぶことも必要です(労働基準監督署への届出は必要ありません)。
① 時間単位年休の対象者の範囲
② 時間単位年休の日数(年5日の範囲内)
③ 時間単位年休1日分の時間数(1時間未満の端数がある場合は1時間単位に切り上げ)
④ 1時間以外の時間を単位として与える場合の時間数
※就業規則や労使協定の具体的な例文は、こちらの資料も参考にしてみてください。
まとめ
時間単位年休の運用ルールを正しく理解し上手く活用ができれば、フレキシブルな就業が可能となる制度です。
仕事で高いパフォーマンスを発揮するためには、心身の健康とモチベーションを維持することが欠かせません。ワークライフバランスを実現する施策には様々なものがありますが、この「時間単位年休制度」は、従来の有給休暇制度の延長上にあるためわかりやすく、継続しやすい取り組みです。そして今の社会では、ワークライフバランスへの取り組みは企業の社会的価値を上げる非常に重要な施策なのです。今回の記事が優秀な人材の確保と定着のための一助になれば幸いです。
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